この記事を書いた人
丸山 拓人
LifeDesign Office 代表/FP2級技能士・証券外務員一種
得意分野:資産形成・資産運用/経営者の退職金・老後資金対策/個人・法人の保障設計
変化の大きい時代だからこそ、お金に確かな見通しを。 不安を減らし、次の一歩を踏み出せるように。
この記事について
役員報酬は税金だけで決めるものではありません。社会保険料、個人の生活設計、法人に残す資金はつながっています。定期同額給与のルールや厚生年金の上限の改正予定も含め、決算前に整理しておきたい視点をFPの立場からまとめました。
決算が近づくと、「来期の役員報酬はいくらにしようか」と考える経営者の方は多いのではないでしょうか。前期と同じ金額にする、手取りの感覚で決める、周りの話を参考にする——決め方はさまざまです。
ただ、役員報酬の金額は、法人税・所得税だけでなく、社会保険料、個人の生活設計、そして法人に残す資金にも影響します。これらをあわせて見ることで、自社に合った水準を考えやすくなります。
この記事では、中小企業の経営者・一人社長の方に向けて、役員報酬を考えるときに押さえておきたい仕組みと、ご自身で確認できるポイントを整理します。記載内容は2026年10月時点の情報です。
役員報酬は、次の三つをつなぐ役割を持っています。
役員報酬を上げれば個人の手取りは増えやすくなる一方、社会保険料や個人の税負担も増え、法人に残るお金は減ります。下げれば逆の動きになります。どれか一つだけを見て決めると、ほかの二つへの影響が見えにくくなります。
「税金が少なくなる金額」や「手取りが多くなる金額」だけでは、ご自身やご家族の生活、会社の資金繰りにとって無理のない水準かどうかは判断できません。三つを並べて見ることが、整理の出発点になります。
法人が役員に支払う給与には、法人税法上のルールがあります。代表的なものが「定期同額給与」です。
定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものをいいます(国税庁タックスアンサーNo.5211)。
また、役員給与のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものは、損金の額に算入されないとされています(退職給与等を除く)。役員報酬は「いつでも自由に決めて、いつでも変えられる」ものではない、という点をまず押さえておきましょう。細かな要件や例外があるため、個別の判断は顧問税理士にご確認ください。
定期給与の額の改定は、原則として、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに行うことが、定期同額給与の要件とされています。
つまり、次の期の役員報酬は、期首からの限られた期間で決めることになります。決算前のうちに「個人として必要なお金」と「法人に残したいお金」を整理しておくと、その判断材料になります。
なお、臨時改定事由や業績悪化改定事由など、期中の改定が認められる例外もあります。「期中は一切変えられない」というわけではありませんが、該当するかどうかの判断には専門的な検討が必要です。改定の時期や要件の判断は、顧問税理士にご確認ください。
ここでは、役員報酬の増減によって動く主な要素を整理します。実際の負担額は、会社の利益、ご家族の状況、加入している健康保険などによって大きく変わるため、ここでは仕組みの理解にとどめます。
資本金1億円以下の法人など(中小法人)の法人税率は、所得の金額によって段階があります(令和8年4月1日現在の法令等、国税庁タックスアンサーNo.5759)。
| 所得の区分 | 法人税率 |
|---|---|
| 年800万円以下の部分 | 15%(令和7年4月1日以後に開始する事業年度) |
| 年800万円超の部分 | 23.2% |
要件を満たした役員報酬は法人の損金となるため、一般的には、報酬を増やすと法人の所得は減り、減らすと法人の所得は増える関係にあります。
役員報酬は、個人にとっては給与所得です。給与の収入金額から給与所得控除額を差し引いた金額が給与所得となり、さらに所得控除を差し引いた額に所得税・住民税がかかります。所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税の仕組みです。
給与所得控除額には上限があり、給与等の収入金額が850万円を超える場合は195万円が上限です(令和8年分・令和9年分、国税庁タックスアンサーNo.1410)。収入が一定以上になると控除額は増えないため、報酬が上がった分は、そのまま課税対象の所得の増加につながりやすくなります。
令和8年分以降、給与所得控除の最低保障額などは見直されています。上限以外の数字を使って試算する場合は、適用される年分の表をご確認ください。税制は改正される可能性があります。
厚生年金保険の被保険者には、法人の役員も含まれます。厚生年金保険料は、標準報酬月額と標準賞与額に共通の保険料率をかけて計算し、事業主と被保険者が半分ずつ負担します。厚生年金保険料率は、平成29年9月以降18.3%で固定されています(一般の被保険者、日本年金機構)。
一人社長の場合に意識しておきたい点
保険料は会社負担分と本人負担分に分かれますが、一人社長の会社では、会社負担分は法人のお金から、本人負担分は役員報酬から支払われます。形式上は「労使折半」でも、実質的にはどちらも同じ経営者が負担している構図になります。役員報酬を検討するときは、給与明細に表れる本人負担分だけでなく、会社負担分も含めた全体で見ておくと、実態をつかみやすくなります。
標準報酬月額・標準賞与額には上限があり、厚生年金保険と健康保険とで上限の決め方が異なります。
| 項目 | 厚生年金保険 | 健康保険(介護保険を含む) |
|---|---|---|
| 標準報酬月額の上限 | 65万円(32等級)※2027年9月から段階的に引き上げ予定 | 139万円(第50級、報酬月額135万5千円以上) |
| 標準賞与額の上限 | 支給1回につき150万円(同じ月に2回以上支給されたときは合算) | 年度の累計で573万円 |
| 保険料率 | 18.3% | 加入している健康保険によって異なる |
標準賞与額に上限があることから、報酬の一部を賞与にすることを検討する方もいます。ただし、役員賞与を法人の損金とするには、事前確定届出給与などの別の税務上の要件があります。社会保険料の面だけを見て報酬の形を決めると、税務面で想定と異なる結果になることもあるため、顧問税理士と確認しながら検討することが大切です。
社会保険料は、毎月の負担として意識されやすいものです。ただ、厚生年金保険料は将来の老齢厚生年金などの給付につながり、健康保険料は病気やけがなどの際の給付を支えています。
役員報酬を低く抑えれば保険料負担は小さくなりますが、その分、将来の年金額などに反映される部分も小さくなり得ます。どちらがよいかは一概にはいえず、老後の生活設計や、ほかにどのような備えをしているかによって変わります。負担の大きさだけでなく、将来受け取るものもあわせて見ておくことが大切です。
現在、厚生年金保険の標準報酬月額は、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。この上限は、年金制度改正により、2027年9月から段階的に引き上げられる予定です(2026年10月時点、厚生労働省)。まだ施行されていない改正のため、引き上げ後の具体的な金額や時期は、厚生労働省・日本年金機構の最新の情報をご確認ください。
上限が引き上げられると、上限付近の報酬を受け取っている方は保険料の負担が増える可能性があります。一方で、将来の年金額に反映される部分が増えるという面もあります。現在の報酬水準が上限付近にある方は、来期以降の検討にあたって、負担と給付の両面からこの予定を頭に入れておくとよいでしょう。
役員報酬を「いくらにするか」を考える前に、個人として必要なお金を把握しておくと、検討の軸ができます。
これらを時系列で並べると、「毎年必要な手取り」と「将来に向けて積み立てておきたい金額」が見えてきます。役員報酬はその手取りを確保する手段の一つです。必要額から逆算して考えることで、根拠のある水準を検討しやすくなります。
経営者が個人として、退職後や廃業後に備える制度の一つに、中小機構の小規模企業共済があります。
一方で、共済金を受け取るときにも課税関係があります。また、掛金納付月数によっては、解約時に受け取る額が掛金の合計を下回る(元本割れとなる)場合があります。加入資格や共済金の受け取り方などの詳細は、中小機構の情報をご確認ください。
ここでは制度の紹介にとどめます。加入するかどうかは、ご自身の資金計画の中で、ほかの備えや資金の流動性とあわせて検討する事柄です。
役員報酬を抑えると法人に残る利益は増えやすくなりますが、「法人に多く残しておけばよい」と一律にいえるものではありません。法人に残すお金にも、目的を持たせておくことが大切です。
法人に残したい金額が見えてくると、「役員報酬としてどの程度まで支払えるか」も考えやすくなります。個人の側と法人の側、両方から必要額を出し、その間でバランスをとるイメージです。
なお、法人に残した資金をどこに置くか(預金、保険、運用など)は、目的や使う時期、必要なときに引き出せるかどうかによって考え方が変わります。特定の商品を前提にするのではなく、まず「何のために、いつまでに、いくら必要か」を整理しておくと、判断がしやすくなります。
役員報酬の検討には、税務と生活設計の両方の視点が関わります。
| 税理士 | FP | |
|---|---|---|
| 主な役割 | 税務上の判断、申告、役員給与の要件や改定時期の確認など | 生活設計・資産形成の全体像の整理、個人として必要なお金の見える化、制度の情報整理など |
| 検討の例 | 定期同額給与の要件、臨時改定事由に当たるかどうか | 教育費・住宅・老後資金の見通し、個人の資金計画 |
税務上の判断は税理士の領域です。FPは生活設計・資産形成の全体像を整理する立場から、税理士と連携してお手伝いできます。顧問税理士に相談する前に、個人として必要なお金や将来の計画を整理しておくと、話を進めやすくなります。
決算前のうちに次の点を確認しておくと、来期の役員報酬を考える材料がそろいます。
個人の生活設計や資産形成の全体像を整理したいときは、FPに相談するのも一つの方法です。税務上の判断は顧問税理士と連携しながら進めていきます。
ライフデザインオフィスでは、経営者の方の生活設計・資産形成の全体像を整理するお手伝いをしています。「個人として必要なお金」と「法人に残したいお金」を一度整理してみたいときは、顧問税理士の先生と連携しながら一緒に考えることができます。ご関心があれば、お気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人
LifeDesign Office 代表/FP2級技能士・証券外務員一種
得意分野:資産形成・資産運用/経営者の退職金・老後資金対策/個人・法人の保障設計
変化の大きい時代だからこそ、お金に確かな見通しを。 不安を減らし、次の一歩を踏み出せるように。
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